
定年退職後に大学で学び、大学院に進学して、ついには71歳で数学の博士号を取得した人がいる。そこまで行かなくても、某旅行会社では全国各地の大学などと協力して、団塊世代向けの「シニアサマーカレッジ」を実施。高い人気を集めているという。
今年から大量の団塊世代が次々に定年を迎えることになるが、退職すれば社会との縁が切れてしまうことになる。簡単にいえば名刺がなくなり、帰属できるコミュニティは家族と地域しかなくなってしまうわけだ。このため、退職後はすっかり元気をなくすケースも少なくない。特に男性の場合、家に毎日いるという状態では、奥様も扱いに困るというのがホンネだろう。年金分割で「定年離婚」も流行しそうな気配を見せており、年金支給までの資金も問題ではあるが、定年以降のシニアライフを真剣に検討すべきではないだろうか。
もちろん、会社に引き止められる人や、仕事を続けなければならない人もいるはずだが、もし仮にいくらか余裕があるのなら、大学や大学院に入学することをお勧めしたい。
冒頭で紹介したシニアのように、これまでの仕事とは関係ない分野で、学問を究めるというのもいいではないか。
シニア向けの奨学金制度を新設した大学もあるほか、入学時に満52歳以上の大卒者と限定した「シニア大学院」もある。学部でもこうした年齢的な出願資格を設けた大学も出てきた。実際問題として、社会人特別選抜、いわゆる社会人入試は小論文と面接程度というところがほとんど(試験を課す大学もある)なので、受験負担そのものは少ないのである。話題を集めている宮崎県知事も、早稲田大学に社会人入学しており、うまくいけば、彼のように政治への道だって開けるかもしれない。
だが、正規入学となると、やはり覚悟が必要になってくる。果たして勉強を続けられるだろうかという不安もあるはずだ。シニア世代に限らず、そんな不安を持つ社会人にオススメしたいのが、学問の「つまみ食い」なのである。

まず、最も気軽に参加できて、時間の拘束も少ないのが、「公開講座」だ。文部科学省では、大学における教育や研究成果を社会に開放するのが基本的な目的であり、地域住民に高度な学習機会を提供するとしている。講座数や受講者は年々増加しており、04年では国公私立大学を合わせて約2万1000講座が実施され、約106万人が受講したという。
内容的にも、国際関係や環境など現代的なテーマや語学、女性向けの講座も増加傾向にあるようだ。
こうした公開講座は大学のホームページなどで告知したり、冊子としてまとめている大学もあるので、自宅に近い大学に問い合わせていただきたい。自分の興味が持てる分野に、気軽に参加するという意識が大切である。
大学内で行われる講座だけでなく、国内旅行や、海外に足を伸ばすというケースもある。もちろん教授が同行するので、普通の旅行では見逃してしまうことも、学問的に理解できる。ホネ休めだけの海外旅行も悪くはないが、こうした講座では知識をお土産にできる。旅行中に、同じような趣味を持つ「同好の士」に出会うこともあるかもしれない。
こうした公開講座は趣味ばかりでなく、社会人に対する専門教育という側面もある。文部科学省では、公開講座を修了した人に「履修証明」を授与することを検討しており、学校教育法の改正案に盛り込む予定だ。それが実現すれば、「履修証明」は公的な意味を持つことになるため、たとえばIT関係などのビジネス直結の講座が急増するかもしれない。現在でも社会人にスキルアップや最新知識を提供する公開講座は少なくないのだが、これまでは受講して終りだったが、学びの証明が授与されるようになるのだ。
文部科学省では、これと合わせて優れた内容の講座への補助金拡充も検討している。
こうした公開講座をステップにして、正規入学ということも十分あり得る。若い人からシニアまで、男女を問わず、公開講座を利用しないのは、実にもったいない。特に東京では、様々な大学がサテライト・キャンパスを設置しており、かなり学びやすい環境になってきた。名古屋、大阪でも都市部にキャンパスを持つ大学が増えているので、会社または自宅近くの大学をチェックしていただきたい。

公開講座ほど手軽ではないが、科目等履修生という制度もある。これは、特定の科目だけ受講を許可される制度であり、その科目が修了するまで通学するということになる。正規に入学すれば、数多くの科目を受講することになるが、こちらは特定の科目だけを「つまみ食い」できるということだ。入学審査も簡単で、学部だけでなく、大学院でも利用できる。
たとえば経営大学院でマーケティングの1科目だけ履修したり、学部で経済学基礎だけを履修するなど、公開講座よりも本格的な勉強ができることが魅力だ。ビジネスパーソンにとっては、自分に欠けた学問知識だけを補充することができ、単位も取得可能。ただし、単位を出さない科目もあるので、それが必要なら事前に確認していただきたい。
シニアの場合は、フランス革命などの歴史分野や、人文系が面白いかもしれない。
いずれにしても、こうした「つまみ食い」を前提に大学を見直すと、学生時代にはなかった様々な興味が沸いてくるはずだ。学生の頃は、勉強は「しなければいけない」ものだったが、今度は自分の興味で学ぶことができるからである。
とりあえずは公開講座から、気軽に参加してみませんか。
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