紛争、貧困、教育、医療、人権、環境……。世界には様々な困難に直面している国がある。それぞれの問題は単純なものではなく、個々の問題が互いに関連し合い、複雑化しているのが近年の傾向だ。こうしたなか、国際協力のあり方も考え直すべき時期にさしかかっている。国際ボランティア学会会長の内海成治氏に、国際社会の現状や国際協力の意義、日本人である我々が果たせる役割などについてお話をうかがった。
誰もがボランティアを経験できる仕組み作りを
- ――近年、日本にもボランティアという概念が定着しつつあります。
- そうですね。特に、阪神・淡路大震災の時に全国からボランティアが駆けつけ、その活動の様子をメディアが報じたことが大きいと思います。あの地震を機に、自分には関係ないと思っていたボランティアというものを自分のこととしてとらえる人が確実に増えました。その意味で、1995年はボランティア元年と言われています。その後、100以上の大学でボランティア関連の講義が開設されたり、多くの学生や市民が実際に活動に参加するようになったり、すそ野はどんどん広がっています。
- ――その一方で、まだ一歩が踏み出せない人も多いという現状もあります。
- ボランティアには、自ら実践することによって初めてその良さがわかるという不思議な性質があります。経験した人は皆、自分がしたこと以上に得るものの方が大きいことに気づかされます。だからこそ、社会の中で誰もが気軽にボランティアの経験ができる仕組みを作っていくことが大事だと思います。
- ――かつて、日本海で重油が流出した時など、「個人の自発的行動」対「行政の介入」といった構図が問題になった時期もありました。
- あの時は、ボランティアが安価な労働力として使われているといった批判があり、ボランティアの熱が下がってしまったと記憶しています。確かに現場は様々に混乱するでしょうが、今はボランティア活動が日本で成熟していく過渡期。問題が起こった時に行政の対応やボランティア参加者を非難するのではなく、どう問題を解決していくかを一緒に考える姿勢を共有してほしいと思います。
そこで暮らす人の力を引き出す姿勢が重要
- ――ボランティアも国際協力の場となると、協力する側と受ける側との意識のギャップに直面することもあるかと思います。そうした問題を乗り越えた事例があれば教えて下さい。
- 例えば、教師たちが自主的に研修を重ねることでより有効な教育方法を発見していくという、日本で実際に行われて成功した事例を、中南米の国々の学校の先生たちにも紹介した「教育プロジェクト」は、非常にうまくいっている例の一つだと言えます。協力する側が一方的に何かを押しつけるのではなく、あくまでも現地の先生たちの持つ力を信じた活動であった点が成功の大きな要因だったと思います。従来の国際協力は、途上国に対してモノや技術を与える活動が中心でした。しかし、ただ与えるのではなく、そこで暮らす人たちが持っている力を引き出していくような活動でないと、本当の意味での協力にはなりません。彼らが直面する困難の根本原因を考えた上で、あくまでも側面から支える姿勢が重要だと思います。
- ――相手が本当に求めているものを知ることで、協力のあり方も変わってくるのですね。
- 私が近年関わっているアフガニスタンでは、施設も先生の数も十分ではない中、学校に通う子どもが増えています。全てを失った人たちが、「教育こそが戦乱によって失われない唯一の財産」だと気づいたからです。そこでは子どもたちが地面に坐って勉強していたので、我々は机と椅子を寄付したのですが、その贈呈式の後に彼らに今後日本に何を望むかを尋ねたところ、「椅子もありがたいけれど、私たちのことを忘れないで見ていてほしい」という答えが返ってきました。私はそれを聞き、思わずハッとしてしまいました。私たちは紛争があれば報道しますが、しばらくすると忘れてしまいます。この子どもたちからのメッセージから、今後のあるべき国際協力の姿が見えてくるような思いがしました。
地面に座って勉強する子どもたち。
教室の仕切りは土嚢
誰かの役に立ちたいという思いを大切に
- ――国際協力が成熟していくには、その意義を明確にする必要もあります。
- 国際協力は多面的な事業です。人道的配慮に加え、環境やエイズなど世界全体の課題の解決、貿易相手国の経済的安定への支援、日本の国際的な立場を理解してもらう活動といった要素もあります。しかし、私は国際協力とは一にも二にも相手のニーズに誠実に応える人道的活動であるべきだと考えています。様々なニーズに応えるためには、NGO、ODA、政策決定者が国際協力の意義を共有し、いろいろなレベルの支援をバランスよく行うことが課題ではないでしょうか。
- 特に、日本が行う国際協力は政治的な意図がない点が高く評価されています。日本という国は教育水準も高く、国際的な人道的配慮に対する国民的理解も得られやすい。こうした点から、国際協力の先進国になりうる土壌を持っていると思います。
- ――最後に、国際協力やボランティア活動を始めようとしている方々にメッセージをお願いします。
- 何よりも、自分が誰かの役に立ちたいという思いを大事にしてほしいですね。何かやりたいけれど自分には何の技術もないと思い込んでいる人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。シニアの方には人生経験が、若い方には情熱があります。焦らず、今自分が置かれている場で力を尽くすことが一番の準備になると思います。それと同時に、日頃からアンテナを張って情報収集を行い、自分の思いに知の部分をプラスする努力を続けてください。そうすれば、思いを実現する道は必ず見つかると思います。

内海 成治(うつみ せいじ)
国際ボランティア学会会長(2004年から現在)。専門は、国際ボランティア論、国際協力論。研究テーマは紛争後の国への教育復興支援、伝統的な社会における教育の普及。国際ボランティアやNGOの調査研究。
朝日麦酒、キリスト教視聴覚センタ−研究員を経て、
1981年から1984年まで:マレーシアにある東南アジア文部大臣機構地域理数教育センターにJICA専門家として派遣
1984年から1996年まで:JICAで沖縄国際センタ−や国際協力総合研修所に勤務
1996年から現在:大阪大学人間科学部教授(現在は大学院教授)
- 著書
- 「国際教育協力論」(2002年 世界思想社)
- 編著
- 「ボランティア学を学ぶ人のために」(1998年 世界思想社)
- 「アフガニスタン戦後復興支援―日本人の新しい国際協力」(2004年 昭和堂)
- 「国際協力論を学ぶ人のために」(2005年 世界思想社)








