「住宅の質」に着目した住まい選びのポイントを環境・構造・設計・設備・内装仕上と住宅が完成するまでの流れに沿ってご紹介します。
住まい選びのポイントは、「住まいの質」を見極めることにあると思います。
「住まいの質」がよければ家族にやすらぎを与え、子供の成長にもいい影響をもたらし、夫婦も円満で幸せな家庭を築くことができます。
それはあくまで理想像で現実的ではないと思うかもしれませんが、事実私がそうでした。逆説的にですが・・・
器が変わると家族の生活様式も変わってきます。言い換えれば家族の生活様式に合わせた器を選ぶべきです。「いい子が育つ間取り」「夫婦が仲良くなれる間取り」が必ずあると思います。
そこに住まう家族が快適に過ごせる間取りとはどのようなものなのか、住まいの変遷の中に垣間見てみたいと思います。
政治や経済がめまぐるしく変化する社会の中で住宅における家族のかたちも変化してきました。
前近代の家父長制の大家族は崩れ、近代になって核家族化が進み、夫婦+子供二人の近代家族が標準になりました。そして時代はさらに個人の私生活を重視する方向に向かい「個室群住居」という住宅形式が生まれました。
漫画「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」「ドラえもん」の家を例にとって考えてみたいと思います。
私の想像する磯野家の間取りは、昔の「田の字型住宅」の増築型と言えるでしょう。初めに波平さんとフネさんが所帯を持った頃、あるいはサザエさんがまだ子供だった時までは、おそらくカツオ君ワカメちゃんの部屋あたりが玄関だったと思われます。当然、サザエさんとマスオさんの部屋も増築時にできたものではないでしょうか。
この「田の字型住宅」は、第二次大戦以前からの住宅形式で農家によく見られました。四つの部屋を田の字型に組み合わせたものを基本に廊下と縁側を兼ねたスペースが加わって構成されています。各部屋の障子や襖を取り除けば風が通り抜け、冠婚葬祭の時は広間として使える利点がありましたが、プライバシーは守りにくく食事や就寝の機能が重複するという問題もありました。
当時、家父長制の大家族においては、社会とのつながりは一家の主のみ、家族は何をするにも主の許可を得なくてはなりません。波平さんとカツオ君にはそういった関係を感じますが、そこには厳格な父の愛情と子供の尊敬の眼差しがあると思います。
第二次世界大戦後は水廻りや居間、食堂などを分離して廊下でつないだ「中廊下型の住宅」が一般的になってきました。私の想像するさくら家の間取りは、典型的な中廊下型と言えるでしょう。
中廊下型の特徴は何と言っても機能的に曖昧だった日本家屋の部屋にLDK+寝室+水廻りという分かりやすい機能を与え、それらを廊下という動線でつないだという点にあります。
ちびまる子ちゃんの家では、学校から帰ったまる子ちゃんが必ず台所のお母さんに挨拶をして、それから友蔵さんとおばあちゃんの部屋でお菓子をもらって居間でみんなで食事をするシーンが映ります。部屋が分かれたといっても廊下という動線でつながり、いつもまる子ちゃんの足音が聞こえてきそうな気がします。
こうした「中廊下型住宅」のもう一つの特徴は動線である廊下が建物の中央部分にあるため、部屋が必ず南北もしくは東西に分かれてしまうことです。そこでトイレや水廻りを北寄りにという配置が行われるようになりました。
私の想像する、のび太君の家の間取り図です。
ドラえもんとのび太君のお話にはまる子ちゃんほど台所のシーンが出てこないと思ったら、台所は一番奥にあったのですね。
のび太君が学校から帰ってくるといつも、玄関からすぐに階段を駆け上っていくように思います。そこへお母さんが来てお小言を頂戴するという場面が多いように思います。のび太君の部屋は階段を上がって左手の部屋、押入にはドラえもんが住んでいます。右手の部屋はお話にはあまり登場しない開かずの間ですが、両親の寝室でしょうか。一階の和室はたまにお父さんが新聞を読んでいたりしますが、おそらく台所に近い方の和室が居間で中央の和室は客間でしょうか。のび太君が小さい時同居していたおばあさんはどちらの和室にいたのかもう一度アニメを見て確かめたくなりました。
このように住宅の間取りとともに家族の関係も少しずつ変化してきていると思います。
まる子ちゃんでは家族に少しずつ独立性が生まれ、ヒロシの権限もかなり弱くなっています。しかし、二世帯同居の大家族制や食事は必ず家族揃って摂るところは現代の社会においては子供の成長に欠くことのできない要素であると思います。
LDKを広くし、対面型のキッチンカウンターで食事をするのもいいですが、できれば家族揃って食卓に向かう機会を意図的に作る間取り、子供が個室に入る前に必ずLDKを通るようにする間取り、LDKには必ず誰かがいてそこにみんなが集まってくるような仕掛けといったものがハード面で創れたら、家族の生活様式も少しずつ良い方向に変えて行けるのではないかと期待するのです。
注)文中で登場する間取り図は、マンガ原本およびアニメーションにおいて存在しません。あくまでも、筆者自らが想定したものです。
小杉寧子(コスギ ヤスコ) 一級建築士