「住宅の質」に着目した住まい選びのポイントを環境・構造・設計・設備・内装仕上と住宅が完成するまでの流れに沿ってご紹介します。
「住みたい家=機能的な家」というわけではなく、そこには美しさや雰囲気、感性や情緒といった必ずしも合理的に割り切れない価値観が入り込んできます。小さな土地に建った小住宅が単なる機能を超えた価値を、そこに住む家族に与えている例はいくらでもあります。そうした住まいはたいてい家族同士やそこを訪れる人々とのコミュニケーションや関係のあり方、人間と自然とのかかわり方に対してある種の解答や提言を形として表しています。
今回は「インガルス一家の物語」に登場する「ローラの家」をテーマに住まいについて考えてみたいと思います。
ローラ・インガルス・ワイルダー著「インガルス一家物語」はNBCでテレビドラマ化され、日本でも「大草原の小さな家」として1975年から1982年までNHK総合テレビで放送されたのでご存じの方も多いと思います。この物語は、1870年代から1880年代にかけて作者が実際に経験した北アメリカの大草原での厳しい開拓生活をもとに、その中で成長していったひとりの少女ローラとその家族のお話です。インガルス一家はウィスコンシン州の「大きな森の小さな家」からカンザス州の「大草原の小さな家」、ミネソタ州のプラム・クリークの土手の横穴小屋と移り住み、ローラが7歳のときプラム・クリークの土手のそばに建てた新しい家にやっと住むことができました。物語にはその時の様子が細やかに描かれています。写真は私が想像するローラの家の外観です。テレビドラマとは少し違っていますが原作をもとに再現してみました。
「とうさんは、馭者台にすわったまま、うれしさでいっぱいの輝くような顔をしていました。うしろの荷台には、材木が山のように積んであります。・・・ローラはとうさんにききます。『板でできた家に住めるの?』『そうだよ、製材した材料ばかりをつかった家に住むのさ。それに、ガラスの窓をつけてね』
とうさんとネルソンさんは、骨組みだけの壁の内側に、斜めにけずった羽目板を横につかって順々に重ねて、釘で打ちつけていきました。屋根には、店売りの屋根板を張りました。店売りの屋根板はうすくて、きっちりと同じ大きさにできていました。・・・これが済むと、とうさんは、すべすべした板で、床を張りました。床板は縁にみぞがつけてあり、板と板がぴっちりかみ合うようになっているのです。頭の上にも、とうさんは二階の床を張り、それが下の部屋の天井になりました。」
ローラの家はコロニアル様式といえるでしょう。コロニアル様式はイギリス後期チューダー様式やジャコビアン様式の流れをくみ、急勾配の屋根と切妻などの特徴があり、装飾が控えめでシンプルな様式です。アーリー・ニューイングランドのハーフティンバー住宅は、木製のクラップボードを傾斜させて張り合わせた外壁で作られていました。イングランドでは森林資源が限られていたため、木材は高価で、まれにしか使われませんでしたが、ニューイングランドは森林資源が豊富で、今日まで続いてきた初期コロニアル住宅の基本的な構成要素になりました。アメリカ開拓時代の先駆者たちが、新大陸の厳しい生活の中で故郷をしのび再現した−それがコロニアル様式なのです。
ローラのとうさんが建てた家は大草原の小さな家の丸太小屋に比べ、店売りの材料をふんだんに使いとても立派なものでした。縁にみぞのついた床板は今でいうフローリングに近いものでしょう。店売りの屋根板や床材といったいわゆる工場生産品はその頃からアメリカでは使われていたようです。ローラのとうさんが使ったかどうかは分かりませんが、1860年創業のアームストロング社のフローリングは今でも幅広い人気があります。ちなみにフローリングが国内で製造開始されたのは大正2年(1913年)北海道から輸出するナラ材の端材処理のためとされています。
「下の部屋には、とうさんは間仕切りをしました。この家には、部屋がふたつもできるのです!ひとつは寝室で、もうひとつは、ただ居間にだけつかうのです。この部屋に、とうさんは、ピカピカのすきとおったガラス窓を、ふたつとりつけました。ひとつは日の出が見える側に、もうひとつは、南側の戸口の横に。寝室にも、やはりふたつ窓がつき、それもやはりガラスでした。・・・窓は上下ふたつに分かれていました。その両方に、六枚ずつガラス板がはまっていて、下の半分を押しあげて、ささえ棒をかうと、窓は半分あいたままになるのでした。」
ふたつも部屋ができるとおどろくローラ。寝室と居間に分けただけで大満足の様子が伺えます。もうひとつは「ただ居間だけにつかう」というのもおもしろい表現です。家族がただ居るから「居間」。そこは時間によっていろいろな役割を果たすオールマイティーな部屋なのです。日本では「茶の間」がそれに近いかもしれません。
「とうさんは、寝室は、かあさんとキャリーととうさんがつかい、屋根裏部屋はメアリイとローラが寝たりあそんだりする所だといいました。・・・ローラはみがるに梯子をささっとのぼり、屋根裏部屋の穴から顔を出してみました。そこは下のふたつの部屋を合わせたのと同じ広さです。床もすべすべした床板で張ってありました。ななめになった天井は、あたらしい黄色い木肌の屋根板の裏側なのです。屋根裏部屋の両端には、それぞれ小さな窓があり、その窓も、やはりガラスの窓なのです!」
原作では、屋根裏部屋は下のふたつの部屋を合わせたのと同じ大きさになっていますが、テレビドラマに登場する家では寝室の上にだけ屋根裏部屋があったように思います。私の想像するローラの家ではダイニングテーブルの上を吹抜けにしました。寝室の上はベッドを置くと狭くなるので東側の小窓までの細長いスペースがあそびの空間になります。屋根裏部屋は壁で仕切られていないので、ローラやメアリイの様子も分かり、家族のコミュニケーションのとりやすい間取りといえます。
「ふたりは、もうこれで、家はできあがったのだと思いました。けれど、とうさんは、家の外壁ぜんたいに、真黒なタール紙を釘で打ちつけました。そして、その紙の上に、また壁板を打ちつけました。その壁板は、すべすべした細長い板で、家のまわりぜんぶに、下から順に少しずつ重なるようにして張ってあるのです。・・・『この家は、太鼓みたいにびっしりできてるぞ!』、とうさんは言いました。天井にも壁にも床にも、この家には、雨や冷たい風がはいってくるすき間ひとつないのです。・・・ガラス窓は両側ともあけはなされ、外の空気も光もいっぱいにはいってくるし、戸口とその横のピカピカした窓からは、日の光が流れ込んできました。この広々した、明るくてせいせいした家のなかで食事をするのが、あまり楽しかったので、食べおわってからも、ただそうやっていることがうれしくて、みんなテーブルをはなれずにすわっていました。」
この家は、プラム・クリークの土手にできた横穴小屋とは比べものにならないほど快適な居住環境だったことでしょう。私たちの住まいも住宅設備の充実により、快適な居住環境といえます。しかし、ローラの時代のような自然の心地良さを受けとめる感性も大切にしていきたいと思います。日本の気候はアメリカの大地と比べ、比較的温暖で、本当に冷暖房を必要とする日数は年間にしてみると延べ4ヶ月程度です。それ以外の期間は特に機械設備に頼らなくても、建築的な対応をしっかり施せばほとんど問題ないと言えます。機械に頼るということは、光熱費がかかるだけでなく、体温調節のうまくいかない子供たちやアレルギー体質の症状を引き起こす原因にもなります。
快適な住まいのために建物に施しておくこととは、
・風通しをよくする・・・室内だけでなく床下や屋根裏の換気や通風を十分にする。開口は南北に風の道ができるようにとるとよく、また空気が滞留しそうな場所に設ける。
・外気に接する壁や屋根の断熱をよくする・・・断熱性を高めるには、断熱材の厚みを増すより、隙間なく施工する方が効果が期待できる。
ローラの家は住み心地の点においても現代のお手本になる家と言えるでしょう。
※参考文献 福音館書店「インガルス一家物語」(3)プラム・クリークの土手で 恩地三保子訳
小杉寧子(コスギ ヤスコ) 一級建築士