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お役立ちコラム

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「住宅の質」に着目した住まい選びのポイントを環境・構造・設計・設備・内装仕上と住宅が完成するまでの流れに沿ってご紹介します。

第5回「Quality of Life-小さな家の住まい考2 コルビュジェの小さな家」

1923年、スイスのレマン湖の辺に一軒の小さな家が建ちました。「小さな家=UNE PETITE MAISON」と呼ばれたその家は、当時世界的に有名であった建築家ル・コルビュジェが彼の両親のために建てた家です。

年老いた両親が「長年にわたる多忙な生活を終えて」安らかな日々を過ごせるように、ル・コルビュジェは老夫婦ふたりが生活するための居心地よい空間を創りました。

「この家の高さは2.5mである。(最小の規定寸法になっている)。これは地表に横たわる細長い箱である。」

「小さな家」は高さ2.5m、奥行き4m、長さ16m、述べ床面積60m2の東西に細長い平屋でした。鉄筋コンクリート・ブロック造によってもたらされた自由な平面は無駄のない動線計画を可能にし、自由なファサードは湖に面した南側の壁面に長さ11mにも及ぶ連続窓(リボン・ウィンドゥ)を可能にしました。

当時、ル・コルビュジェの母親は64歳でしたが、さらに高齢になっても不自由なく気持ちよく過ごせるように、動きまわるにも、掃除するにも広すぎず、余分な労力や費用がかからない質素な最小限住宅としたのです。

私たちは誰もが広い家に憧れますが、維持管理するのは大変です。家事労働の面から、主婦がひとりで毎日掃除できる面積は最大でおよそ50m2とされています。また、住まいの適正な広さとはどれくらいか、ひとつの目安として次のようなものがあります。

(1)家族の人数に25m2を掛けた広さ
(2)家族の年齢を合計した平方メートル
(3)夫婦ふたりの生活空間50m2に家族一人増えるごとに10m2を加え、全体の2割程度を通路や収納にあてる

この計算でいくと「小さな家」の場合、(1)では50m2 (3)は60m2となります。

「各機能には許される限り最小の面積を充てること。その結果、床面積は合計54m2になった。最終案では、この家は平屋建てで、あらゆる通路を含めて延べ床面積60m2におさまった。」

ル・コルビュジェは年老いた両親ふたりだけの静かな生活を思い描きながら、本当に必要なものだけをどのように組み合わせたら機能的で快適な住まいができるかを考えたことでしょう。

約300m2の細長い敷地の北側は「羊飼いの道」というローマ時代からの旧道に面しています。ひっきりなしに車の通る道路からひっそりした塀の内部へ入ると、犬がお出迎え?

「この家の犬が喜ぶように(というのも、この犬は家族の一員なので)、道行く人々の足元に合わせた高さに、柵つきののぞき穴がある小さな踏み台を設けてやった。こうしておけば犬は飽きもせずに遊んでいられる。門扉の柵からこの踏み台つきののぞき穴まで、この犬は続けて20mも疾駆でき、さらに心置きなく吠えることもできる。」

老夫婦にとって犬は家族の一員であっても毎日散歩に連れて行くことはできません。犬が運動不足にならないための策として塀にのぞき穴をつくるアイデアにはコルビュジェの優しい人柄を感じます。

犬に案内されて中央の玄関からリビングに入ると、そこはリボン・ウィンドゥから湖が眺められる別世界。十分な太陽の光がさしこみ、時間の流れや季節や天候によって刻々と変化する湖とアルプスの山々を間近に感じることができます。部屋と部屋を仕切る扉はなく東端の空間のみが、スライド式の折りたたみパネルによって、来客時にゲストルームとして使えるようになっていました。西側は寝室、浴室、納戸兼乾燥室へと続きます。北側は洗濯室とキッチン・トイレなどがあります。生活の行為は流れるように続くものですが、このプランでは寝室を中心として家中を一周することができます。

動線計画では物を入れる場所が通り抜けられるかどうかが、非常に大きな使い勝手の差になってきます。袋状になっていると、いくら広くても奥の方は取り出しにくく、物を置いておくだけになって、結局手前だけ使うことになってしまいます。家全体も同様に、行き止まりではなく回れることが大事なことなのです。

「1923年には、この敷地はまったくのさら地であったのだ。たった一本の桜桃の苗木が添木にくくりつけられていたにすぎず、その茎先には3本の柔毛しか生えていなかった。・・・かくして木々は順調に生育する。桜桃の木はすでに成木となっていた。それで、母は冬の間中使えるだけのサクランボウのジャムを作っていた。」

ル・コルビュジェはジャム作りの好きな母のために、ワインセラー兼用の保存食のための地下貯蔵庫を作りました。他にも、裁縫机や移動式の照明器具、天窓から光が差し込む明るく清潔な洗濯室、整理しやすく仕切られた納戸の棚など多くの工夫や仕掛けを施し、単調になりがちな高齢者の住まいに活気を与えています。

「マリー・シャルロット・アメリー・ジャヌレ・ペレの91歳の誕生日を祝して。わが母はこの太陽、かの月、あの山々、この湖、そしてこの家を統べ括る。子女たちの愛情あふれる敬いに包まれて。1951年9月10日」

自然をこよなく愛した父のジョルジュ・ジャンヌレは1年間、音楽家であった母のマリーは101歳でなくなるまでの36年間を「小さな家」で過ごしました。

※参考文献 「小さな家」(UNE PETITE MAISON)ル・コルビュジェ著 森田一敏訳 集文社
小杉寧子小杉寧子(コスギ ヤスコ) 一級建築士
日本大学理工学部建築学科卒
大高建築設計事務所入社、結婚を機に退職、その後育児に専念する。
現在、家づくりトータルコーディネートセンターで、住宅のあらゆる相談に応じる。